高垣伸匡先生インタビュー「EBMがもたらす医療の向こう側」

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高垣伸匡先生インタビュー「EBMがもたらす医療の向こう側」

根拠に基づく医療とも呼ばれるEBM(evidence-based medicine,) 。 医療法人社団 千春会病院の高垣伸匡先生は、EBMのワークショップを現場の薬剤師向けに、10数年にわたり開催しています。 在宅医療は医師の指示だけで動くのではなく、薬剤師自らが患者さんからお話を伺ったり、身体所見や今後起こりうる問題を解決しなければならない、自由度の高い仕事。しかし、自分で考え動くにはデータに裏打ちされた「病気に対する正しい知識、対処法」などが必要です。 「薬剤師が論文を読んで臨床にその結果をフィードバックして貢献するという世の中が来ると信じてやっています」と語る高垣先生のEBMセミナーが日本在宅薬学会で開催されます。 EBMは薬剤師にとってどのような意義があるのか、高垣先生とEBMのルーツを辿りながらお話を伺いました。



教わったことを次に発展させるには論文を読むのが一番


―高垣先生のEBMのルーツとはどういったものでしょうか。


高垣:私が研修医になったのが1977年で、大阪の西成区にある病院で研修を受けていたのですが、研修自体が自分ではうまくいかなかったと凄く思うことがありました。と言うのも、その病院は研修システムがまだ良くできていなかったので、教えていただくことがスムーズに出来なかったというのがその理由です。 自分で何か勉強していないとそもそも教えてもらうのが無理ですし、教わったものを次に発展させるにも、「やはり自分で勉強をしなくては」というものがありました。そのために、教科書を読むなど色々しましたが、結局論文を読むことが一番、グッと知識が付き勉強になりました。 その結果、ベテランの先生と話をする上でもすごくスムーズに進んだり、たくさん良い経験ができました。 そして、「論文を読む」という行動に、ぱらぱらと読むものではなくて、何かないのか、と探している時にEBMに出会いました。 EBMが、論文を学ぶためのものなのだと理解し、勉強をしてみようと思ったのが研修医の3年目でした。
しかし、正直どのように勉強をしたら良いかが分からず、EBMの専門書も読んでも分からないというのもありました。そこで、EBMの勉強をするために、一旦臨床医を離れ、大学院で勉強をしようと思いましたが、結局大学院へ行っても、大学院は基礎研究の場所なので、基礎実験しながらEBMの勉強をしたいと思いました。EBMに詳しい先生や仲間を見つけていくうちに、ワークショップ形式で、イギリスのEBM学習を提供しているCASP(Crinical appraisal skills programme 医療・健康政策決定者、医療従事者や医療消費者を対象に医療情報の有効性を判断し、行動できるようサポートすることを目的とした組織)というグループと出会い、日本へ移植してくださった倉敷中央病院の福岡敏雄先生と出会いました。



福岡先生の薫陶を受け、まずはワークショップで勉強をさせて頂き、次はチューター(教える役)をさせていただいた後は、ワークショップを開くようになり…今ではEBMのワークショップを、年に自分で開くのは3~4回で、他の方のお手伝いが5~6回という感じです。EBMを教えるというのも今は一つの軸に据えて頑張っております。



在宅医療は医師の指示ではなく、自ら患者さんの身体所見、今後
 起きてくることなど、問題を解決する自由度の高い仕事ですね。


―年間3~4回はEBMワークショップを開催されているということですが、今回、日本在宅薬学会で開催をしようと思われた、きっかけはありましたか。


2018年の3月に調剤薬局の薬剤師さんを対象とした、薬局ワークショップを開催しました。調剤薬局ということで、在宅にもすごく詳しく、在宅を仕事にされている先生方も沢山参加されていて、そこから日本在宅薬学会へ声をかけていただきました。 在宅医療は病院の薬剤師さんや調剤薬局さんだけですと、医師の指示で調剤するだけで終わりがちなのかもしれません。でも、実際に在宅などで訪問をするとなると、自分で患者さんからお話を伺ったり、身体所見や、今後起きてくること等、問題を解決しないといけないので、医師の指示でよりも、かなり自由度が高いですね。



在宅医療をする薬剤師が、まず自分一人で完結できるような医療者
 であることが必要


その自由度が高い中で、自分で考えて動く時は、「正しい医療とは何だろうか」「どうすれば良いのか」の理解が必要です。他の先生の話を聴くのも一つですが、やはり基礎知識として、元々の治療の論文やデータを知っておかないと、「この治療は急ぐものなのか」、「しばらく様子見でよいのか」とか、「この身体所見なら、どんな疾患に何%くらい起きるのか」など、その都度聞けないので、在宅をする薬剤師が、まず自分一人で完結できるような医療者であることが必要だと思います。その学習の一つとしてEBMで論文を学んでいただくということをご提案できるのではないかと思っています。





医師と共通の認識を持つことで、うまく連携を取ることが出来ます
 し、患者さんに何か質問をされても知識があるため、「さじ加減」が
 分かるようになってきます


―薬剤師がEBMを学ぶ意義とは何でしょうか?


この前使用した資料がこれなのですが…。これは血圧を下げることを何年も追跡して、死亡率や心不全率、脳卒中などの発生率を調べたものです。このような資料の内容を知っていないと、例えば患者さんから「血圧を下げた方がいいのですか?」と聞かれたら「薬を飲みましょう」というしかないと思います。
ただ、今日から飲み始めたらいいのか、体重や食事などを減らして一回様子を見てからがいいのか…患者さんから「どうしたらいいですか?」と聞かれることもあると思います。そんな時、資料をみると、脳卒中も発生率は高くなく、薬ごとによる効果の差もないため、いろいろな薬を勧められても、どの薬もあまり変わらないことを自信を持って言えます。



ただ、その患者さんが心不全がベースにある場合、どれが非常に効くのかも資料からデータで分かっているため、論文や資料の内容が頭の中に入っていれば、それをお勧めすることが出来ます。
データの内容を覚えているからと言って医師と喧嘩をするわけではなく、医師と共通の認識を持つことができるので、医師の知識と薬剤師の知識が一致すれば、薬剤師にとってもすごい自信になります。また、同じ情報を持つ仲間として医師と共通の認識を持つことで、うまく連携を取ることが出来ますし、患者さんに何か質問をされても知識があるため、「さじ加減」が分かるようになってきます。



論文を読み、正しい知識が身につくといろんな意味でプロとして余裕
 を持つことができます


先程の血圧の例ですと、薬の選択に関しては、「Aの薬は血圧の高い人に飲ませる」という教科書的な知識だけだと、「速く飲んでくださいよ」「責任取れませんよ」というような言い方になるかもしれません。そうではなく、迷っているのであれば一度医師と相談した方がいいと思うけど、そんなに慌てなくてもじっくり取り組んだらよいのだと、じんわりと話すことが出来るし、論文を読み、正しい知識が身につくといろんな意味でプロとして余裕を持つことができます。 教科書を読むだけや、いたずらに日数だけ何年も何年も働いているからといって身に着けることはできないさじ加減ですし、読めばすぐ身につくので、読む意義はあると思います。 



その地域の薬剤師のメンバーの中に論文が読める人が出てくると、
 自分の仕事の背骨になっていきます


個人がEBMを学ぶ意義としては、個人の力を伸ばしましょうということなのですが、論文を読み始めてみると、論文を読まない人も沢山いるんですが、何割かは、論文を読む学習が好きな人が出てくるんです。同じ職場でおられたら、すごく気の置けない仲間になるのは間違いないと思いますし、その地域の薬剤師のメンバーの中に論文が読める人が出てくると、自分の仕事の背骨になっていきます。そのチーム医療の中でも論文を読む仲間というのはやっぱり出てきますので、それが段々大きくなっていきますと、本当に地域医療に対する貢献にもなりますし、帰属意識も出てきますし、安心感とかいろんな意味でも、個人の力と全体への貢献としてもすごく意義はあります。その2つはよく感じます。



薬剤師が論文を読んで臨床にその結果をフィードバックして貢献する
 という世の中が来ると信じてやっています


―医師と同じように、薬剤師も皆論文が読めるようになれば、地域医療の担い手としてより存在感が高まって行きますね。


医師はあまりそういうのはないんですよ。医局の仲間とかで共通認識は持っていたりする。この治療はこうだとか…、論文を読んでいるというのではなくて、あるチームが共有している情報みたいなものがあるんですよ、何となく学会とかでね。ですから、論文を読んでいく人はどちらかというと、昔からEBMのワークショップをしていても、参加者の9割は薬剤師。もう10数年やってますけど、薬剤師で埋まっているワークショップなんですね。医師はパラパラとしか来ないんです。この医学系の論文を読んで臨床研究を読むというのは確実に薬剤師のスキルだと言い切っていいと思いますよ。医師は読む人は読むけど、読まない人は読まないということで、完全に決まっていますし、なるべくたくさんの薬剤師が論文を読んで臨床にその結果をフィードバックして貢献するという世の中が来ると信じてやっています。





論文を読み始めた方は今までになかったような力が自分の中につき、「医療の向こう側」が見えてくるのがよくわかると思います


―最後にこのEBMセミナーを受ける会員の皆様へメッセージをお願いします


EBMは、あまり多くの方は興味を示さないかもしれませんが、一部の方は興味を持っていただけますし、論文を読み始めた方は今までになかったような力が自分の中について行くのがよく分かると思いますね。患者さんに医療行為を行う根拠、「医療の向こう側」が見えてくるのがよくわかると思います。 根拠がわかることで、自分の中に医療を行っていけるという自信や安心感をまず手に入れていただきたいと思うのと、論文を読むというのは、皆さんに同じような情報を提供して全員が同じような知識を持って動かしてベースを作るものというより、ベースを作れる人を育成するものだと思います。



論文は人間の魂がこもった文章です。論文を読んで自分の臨床に活か
 していくこと以上に勝ることはないんですね


ベースを作れる人を育成するためにも全体だけでなく、その中でも牽引係としてトップになれるような人も必要ですので、論文好きの方は是非とも参加して頂いて、地域や薬局、あとは学会そのもので、とにかく医療の情報における分野に自分がエンジンになり、世界を引っ張るつもりで取り組んでいただけたらなと思います。



論文以上の情報というのは存在しません。論文には参加した患者さん達の情報が詰まってます。論文は人間の魂がこもった文章です。論文を読んで自分の臨床に活かしていくこと以上に勝ることはないんですね。論文を読む力をつけていただくことで、参加して下さる薬剤師さんたちの臨床能力は、どこにいても恥ずかしくないものになるので、ぜひぜひ沢山の方に来ていただけたらと思います。



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高垣伸匡先生プロフィール

所属

医療法人社団 千春会病院 消化器内科部長・地域連携室長

略歴

1997年3月  京都府立医科大学卒業
1997年4月  大阪鉄道病院消化器科研修医
2000年4月  京都府立医科大学分子標的予防医学教室 大学院
2005年1月  博士号取得 博士論文報告番号 甲第1037号
2005年3月  大学院 卒業
2005年4月  第二岡本総合病院 消化器内科 所属
2007年5月  日本バプテスト病院 消化器内科 所属
2012年7月  千春会病院内科 所属
現在に至る

賞罰

・2011年 JMATへの協力のため京都府医師会から表彰

今後の開催日程

2018年12月9日(日)/ 2019年1月27日(日)


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