Director’s Voice 05

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Director’s Voice 05



薬剤師のレベルを上げて、医療全体のレベルを上げていきたい。
伊東 俊雅
(東京女子医科大学病院 薬剤部 薬剤副師長)
東京女子医科大学病院にて、第一線で薬剤師として活躍するかたわら、指導も行っている。これから必要とされる薬剤師像を、自ら考え、現場で実践している伊東氏は、よりよい医療を実現するためのツールの一つとしてバイタルサインを活用している。

バイタルサイン講習会を受けられたきっかけは?

バイタルサイン講習会を新しい一歩への手がかりにすべきと考えた
直接のきっかけは2010年の医政局通知の発表でした。教育機関でもある大学病院ですし、特に東京女子医科大学の場合は、薬学部がないため、薬剤部ががんばらないと薬剤師が恊働するチーム医療が形成されにくいのです。また学生が就職を考えたときに薬剤部って何やっているのだろう?と分かりにくくなってしまいがちなので、厚労省の流れに沿う薬剤師像を現場から創成して行かなければならないと常々思っています。
その流れの一つとしてバイタルサインチェックが位置しており、この講習会を見つけた時は、バイタルサインチェックを薬剤部に広げる良いきっかけを見つけたと思いました。

バイタルサイン講習会を受けて、変化した事は?

自信を持って医師に推奨できるようになった
東京女子医科大学病院の薬剤部には、専門薬剤師のライセンスを持っている薬剤師が複数名育ってきています。しかし皆、知識だけでは、現場で働く際に少し不安があるんです。そこで知識のプラスαとして、患者さんの体調の変化を知るバイタルサインチェックが活躍します。病態生理の理解とともに基本的なバイタルを採ることによって知識が裏付けられ、医師に対して処方推奨の段階で今までより自信を持って言えるようになってきています。
また、バイタルサインチェックを行うことによって、検査データの意味が理解できるようになってきます。理解できるようになれば、薬の副作用を想定して、必要なデータを医師に事前に測定依頼をして、「ほら、このデータがおかしくなってきていますよね。」とエビデンスをもってアラートを出す事ができます。
このように、調べる・伝える手段としてバイタルサインチェックが必要なのですが、これはどうしても薬剤師が自分でバイタルサインをとる技術を持っていないと、意味をなさないのです。医師などから「それ診たのか?その時いたのか?間違ってないか?」と突っ込まれたときにも対応できる自信と経験を持つことが重要なのです。
薬剤師だけでなく周りの意識も変化
意識としては、まず患者さんへの接し方が変わりました。
患者さんに触るなんて、抵抗があるんですよ。頭では問題ないと思っていても、なかなか触れない。バイタルサイン講習会を受けるという儀式が、その一歩を超える助けになりました。
あとは薬剤師だけでなく周りの意識も変わりました。例えば看護師から「異常音がある」と言われたときに、「それどこ?おなかの音?腸の音?ちょっと聞かせて」と聞くと、彼女達の反応が変わって、「振水音がします」とか「ガス腹ですから」というような返答が返ってくるようになる。そうすると、処方された薬をこのタイミングで出すべきか、医師に相談するべきなのか、などの判断を薬剤師がヘルプ出来るようになり、迷ったときはまず薬剤師に聞こう、となります。看護師も薬を出すという判断をするに当たって不安な部分が多いので、それを薬剤師がサポートすることに大きな意味があるのです。
このような変化を受けて、薬剤師自身も今まで以上に、薬を出したらその後の効果や副作用も責任を持ってチェックするという意識を持つようになったと感じます。

ディレクターになろうと思われた理由は?

第三者機関のお墨付き
当時は、バイタルサインチェックを人に教えていいという証、つまり在宅療養支援薬局研究会(現在の日本在宅薬学会)という第三者機関でディレクターに認定されているという信頼性が必要だったんです。ディレクターになるまでは相応の費用がかかりますが、それだけの価値はあります。
特に東京女子医科大学もそうですが、『組織』では、上層部を説得して、全体を動かしていくために必要な後ろ盾でした。講習会としては、院内薬剤師を対象に、応急処置の方法も含めてバイタルサイン講習会を実施しました。やった後と前で、やはり反応が違います。1回の講習を受けただけでバイタルサインを採れるようになった人は少ないですが、バイタルサインを採るか採らないか気にするようになった、練習するようになったという声がちらほら。
今後はさらに現場で活用できるよう、少人数制で、定期的に手技の確認などをしたいと思っています。

今後どういう風にバイタルサインチェックを活用されますか?

今後、医師と包括的に合意した上での共同薬物治療管理、つまりCDTMを実施するためにプロトコールを決めていくつもりですが、そのステップの中で活用したいと思っています。薬剤師の中でも、業務上のレベルを明確に分けて、医師にとってこのレベルの薬剤師ならPDCAを任せられる、という薬剤師を徐々に増やして行きたいと考えています。 そして医師に信頼され、薬剤師としての職能を存分に発揮できる環境づくりをしていきたいと思っています。その環境にバイタルサインチェックは一つのツールとして決して欠かすことのできない存在だと思います。 チーム医療という言葉がありますが、チームとは凝り固まったものではなく、必要に応じてカタチを変えていくものだと思うんです。個の能力が高ければ、その場その場でチームは作れる。病棟単位、診療科単位で活躍できる薬剤師を作っていかなければならないと思っています。医師から「じゃ、これ頼むよ」と任されたときに対応出来るようになっておかないと。そして、本当にこの薬剤の組み合わせでいいのか、最適な量か、今までに副作用が出ていないか、など部分最適化を図った上で患者の治療に反映する情報としてチームに返す。それが出来ないとチーム医療の貢献にはならないと思うんです。 そういう意味では、バイタルサインチェックは一つのツールで、あとはコミュニケーションとタイムリーな情報伝達を行うこと。そうなると薬剤師を囲む環境もずいぶんと変わってくるだろうと思います。

理想の薬剤師の姿は?

「この事、薬剤師さんに相談しなきゃ」 「薬剤師さんがいて良かった」 と言われる薬剤師に。
前々から言っていることですが、「この事、薬剤師さんに相談しなきゃ」って思われるような薬剤師を目指す、と後輩にはよく言っています。そのためには、患者さんの身体状況や置かれている立場、痛み、つらさ、内服の状況などをイメージできる薬剤師にならないといけないのです。会話の中で、患者さんが伝えようとしている症状変化を病態生理に置き換え、想像して理解して話す、その結果患者さんからは「そうそう!先生そうなの!」という返事が来る。そうした瞬間に患者さんに受け入れてもらえるんだと思うんです。取り調べのように、薬を飲めた?飲まなかったの?飲めなかったの?どうして?と一方的に聞くのでは、患者さんに受け入れてもらいにくい。間違っている事はもちろん修正していかないといけませんが、患者さんは機械ではないので、飲み忘れや時間のズレなど許容できる範囲を理解できないと、ちゃんとした薬の効果も担保できないし、副作用の評価も出来ないと思うんです。
人間は根本的にファジーなので、どこまで許容できるか、結果としてあらわれている効果や副作用をどこまで評価できるか。例えば、今寝ているけど、今日薬を飲んだのが遅いのであれば大丈夫。でもきっちり飲んでいるのに眠いのならオーバードーズじゃないか、という判断は僅差ですよね。きちんと飲んでいても、数十分前にもレスキューしたという事実があれば、それは眠いのが当たり前、となります。そこの評価をできるようにならないといけないと思うのです。 薬剤師に聞いて良かった、薬剤師がいて良かったと思ってもらえるようにならないと。そのためには、病態理解も、患者心理の理解も、コミュニケーション自体の技術も必要です。患者の顔を見て、雰囲気を即座に反応して対応できるように。医師や看護師は経験でそういう事ができているので薬剤師にもできるはずです。 もう一つは、リスクマネジメントが出来る薬剤師。もうすぐ副作用でこういう症状が出るかもしれませんと、医師に事前に進言出来る薬剤師です。ただ、大事なのは、そのときに渡す情報の質なんです。例えば、血液濃度などを調べて、ここの数値が上がる可能性があるので気を付けてくださいという注意書きと、副作用情報や安全性情報などが載った物を渡す。こういった薬剤師になるためのツールとしての、バイタルサインチェック、フィジカルアセスメント、それらの集合体のCDTMプロトコールで、それぞれ全部がツールなんです。 これらのツールを使いこなす事によって薬剤師のレベルを上げて、医療全体のレベルを上げて行きたい。そして患者さんにより質の高い医療を提供できる環境を作って行きたいと考えています。
*インタビューは2013年2月以前のものです。現在はプレゼンテーションスキルを習得するため、規定のセミナーを受けていただいた後でバイタルサイン講習会を開催していただいております。